« 2006年5月4日 | トップページ | 2006年7月16日 »

2006年5月27日

2006.05.27

「湯けむりスナイパー」全16巻+part II 全2巻 実業之日本社

コミックス帯の紹介文というものには同業者の馴れ合い的な印象ばかりあって意に介さないことが多いのですが、最近出た第二部最終巻の帯に”こんなに落ち着く作品はない(詳細忘れた)”的な記載があり、アンビバレンツな題名にも惹かれて読んでみました。妻共々、ハマりました。初めて帯に感謝。

設定は非常にシンプルで、表紙裏に書かれた3行の文章が全て。かつて殺し屋だった通り名”源”が、本編中でその片鱗を僅かに見せるのは物語の序盤だけ。にもかかわらず、過去の残り香は全篇を通して源の佇まいを際立たせ、さまざまなエピソードを紡ぎ出す原動力となる。描写も実に細やかで、当初は客に聞かれた椿屋周辺の季節の移ろいに答える術もなかったところが、物語終盤では彼らしく言葉少なに雪景色の営業をしてみせる。4年の月日を経て源が身に着けた、真人間としての僅かな成長をサラリと、しかし周到に描いてみせる。取り囲む登場人物もまたしかり、人生がにじみ出るような味のある描かれ方である。

当初は温泉宿の酸いも甘いも知り尽くした番頭さんを中心とした、人生悲喜こもごもといった内容が続く。これはこれで「人間交差点」のような味わいがあって良い。ただ10巻の○○○○に絡めたエピソードは個人的にはどうか、と思うのだが。(だって松三かわいそうじゃん)
ところが一転、君江の登場で物語が一気に華やいでゆく。恐らくキャラクターが自律的に動き始めたのだろう、君江の存在は物語の中で徐々に大きくなってゆき、第二部は君江・トモヨとの係わりを描き切るために用意されたようなものである。己の過去に引け目を感じる源が、色恋沙汰に対する封印を(無意識に)解くための仕掛けが第二部冒頭に描かれ、物語は雪崩を打ったように動き始める。それまでに細やかに描かれてきた全てが背景となり、実に味わい深い。

長い物語を中だるみもなく描ききった作者達に乾杯。職場の当直室に全巻揃えておきたいと思った、久々の作品です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2006年5月4日 | トップページ | 2006年7月16日 »